Tuesday, June 11, 2013

ベンチャーキャピタルの衰退とアメリカの自浄作用

先日手元に届いたHarvard Business Reviewをパラパラとめくっていたら、興味深い記事を見つけ、いろいろと思うところがあったので備忘録代りに書いておきます。

記事の内容を一言で言えば、米国のベンチャーキャピタル(以下VC)がライフサイクルカーブでいう衰退期に入りつつある、というものです。曰く、

After peaking in the late 1990s, the number of active VC firms fell from 744 to 526 in the decade 2001–2011, and the amount of venture capital raised was just under $19 billion in 2011, down from $39 billion in 2001, according to the National Venture Capital Association.

まあ2001年といえばネットバブルの最盛期だったので、基準点の取り方の問題もあるのかもしれませんが、とはいえ10年で規模が半分以下になっているというのはかなりショッキングな数字ですよね。で、この数値を聞くと、スタートアップ企業への資金供給が難しくなっているのかなあ、と思われるわけですが、どうも事態は逆らしいんですよね。この記事によると、

But less venture capital doesn’t mean less start-up capital. Non-VC sources of financing are growing rapidly and giving entrepreneurs many more choices than in the past. Angel investors—affluent individuals who invest smaller amounts of capital at an earlier stage than VCs do—fund more than 16 times as many companies as VCs do, and their share is growing.

だったり、

Another new source of start-up investment is crowdfunding, whereby entrepreneurs raise small amounts of capital from large numbers of people in exchange for nonequity rewards such as products from the newly funded company.

だというわけです。

加えて、投資規模と並ぶKPIである運用についても状況は厳しいらしく、公表されている範囲内でも9割の VCの運用成績は株式市場の平均パフォーマンスを下回っていて、結果、

Industry's persistent underperfomance is finally causing institutional investors to think twice before investing in venture capital.

だというのですね。

ううむ。

で、ここまで読んで、VCの人にはとても申し訳ないんですけど、これはこれでいいことなのかも知れないなあ、と思ったんですよね。

もともと僕のVCに対する態度は微妙で、功罪が相半ばするよなあ、というものです。この場合、功は「スタートアップに資金供給を行うことで産業の新陳代謝を促す」というもので、一方の罪は「金持ちが金をエサにして情報を集め、その情報をもとに更に金持ちになることで格差を拡大している」というものです。

言ってみれば、生理的に嫌いだけどまあ仕方ないよな、というもので一種の「必要悪」だと思って諦めていたんですね。

ところが、この記事を読む限り、産業の新陳代謝を促す「功」の部分は急速に他の資金調達手段に代替されている。しかも、ここが重要なポイントなんですけど、その代替を担っているのがエンジェルやクラウドファンディングだということで、これはつまり「分散化」が進行しているということなんですよね。資金調達源が分散化するということは情報も分散化するということですから、これは情報の独占による富裕層の拡大再生産というメカニズムの破壊にも寄与することになるんじゃないかと思うんです。

一方、こういうことになると功罪相半ばしていたVCの存在の罪の部分だけが相対的にクローズアップされることになるわけで、今後はいろいろな側面で厳しい局面を迎えることになるのかも知れません。実際に同記事はかなり断定的に、

VCs will continue to play a significant, but most likely smaller, role in channeling capital to disruptive start-ups.

と結んでいます。

ということで、ここまでが記事内容の紹介なんですが、最後に、この記事を読んで少し考えたことを共有しておこうと思います。僕は、もしこの記事の結びに書かれた様なファンディングの多様化が起こるのであれば、それはもしかしたらアメリカという国が本当の意味で自浄作用を持っていることの証拠なのかも知れないと考えています。

かつてのポルトガルやスペイン、イギリス等の経済大国が衰退していく歴史的メカニズムを研究し、その大きな要因の一つを「富裕層の固定化である」と指摘したのは経済学者のキンドルバーガーでした。



彼は、それら「かつての経済大国」の勃興と衰退を精査し、その衰退要因の一つを「金持ちが社会システムを活用して金持ちを再生産する様になり、結果社会全体のバイタリティが低下した」ためだと指摘しています(ただし、例えば歴史家のトインビーはまったく違う要因を指摘してます)。そして、今現在のアメリカは、ジニ係数(=OECD諸国内で四位)や相対貧困率(=OECD諸国内で一位)等の各種の経済指標を見る限り、かつてのポルトガルやスペインと同じ様な「富裕層の固定化」という局面を迎えつつある可能性があります(厳密には格差と固定化は別の問題ですが)。

こういった「決定的な時期」に、政府というリバイアサンに頼ることなく富の再分配あるいは流動化を促すような社会的な変化が起きてきているということは、この国の自浄システムが非常に健全に機能しているということの証左なのかも知れないなあと、思うんですよね。もしそうなのだとすれば、これは本当にスゴいことだと、奇妙に興奮しています。








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