Thursday, June 20, 2013

サンダーバードからみえてくる「情報の国、英国」


友人の多くは既にご存知のことと思いますが、サンダーバードのテーマが死ぬほど好きです。

で、先日もいい具合に酔っぱらって、どれどれと思ってもう何十回と観たあの映像、つまりカウントダウンに合わせてサンダーバード五号から一号までを順番に紹介するあのイントロを、あらためてYoutubeで眺めていたのですが、そこでハタと気付くところがあってこのメモを書いています。


気付いたことというのは、サンダーバード五号の存在意義についてです。これ、劇中の映像をよく見てみると「SPACE MONITOR」と書いてあるんですよね。つまり、サンダーバード=国際救助隊の活動を支援するために宇宙から地球上のさまざまな活動やデータをモニターして、それを救助隊に連絡するという情報サービス機能を担っているんですよね。

でですね、子供向け番組に登場する主役級メカの、五台のうちの一台が情報サービスを担うスペースモニターであるということを知って、やっぱりイギリスというのは「情報」に対する感性が日本と違うのかも知れないなあ、と考えこんでしまったんですよね(注:よく誤解されていますがサンダーバードは米国ではなく英国のテレビ番組です!)。

この違いは、おそらく両国にとっての「外交の重さ」の違いから出てるんじゃないかと思うんですよね。

中世以来、イギリスは常に、フランスやスペインといった欧州の大国に怯えながら、針の穴を通す様な緻密で戦略的な外交によって生きながらえてきた、という側面があります。ものすごく単純化して言えば、イギリスというのは常にフランスとスペインという大国間の微妙なパワーバランスの拮抗によって延命してきた国ですよね。従って、どちらかが優勢になると必ずイギリスは弱者側について「ビミョ~」に支援し、パワーバランスの回復を図る様に動いています。

典型的には次の様な事例ですね。

1567年、欧州随一の猛将と謳われたアルバ公に率いられたスペイン陸軍の精鋭五万人がイギリスの対岸ネーデルランド(いわゆる低地地方)に進駐しました。これはもちろんイギリスにとって大きな脅威ですが、イギリスが低地に直接進出してこれを撃退することは国力的に無理があります。当時の国力を考えれば、これが出来るのはまあフランスぐらいしかないわけですが、フランスは当時ユグノー戦争(カトリック対プロテスタントの宗教内線)の真っ最中で、それどころじゃありません。

イギリスとしては、フランスを支援して内戦を一日も早く終わらせ、フランスをプロテスタント国家に仕立てなおした上でスペインに対抗させるというアイデアもありえたのですが、皮肉なことにイギリスにとって宗教的に支援しやすいプロテスタント勢力(ユグノー派)は、一貫して低地地方進出への野心を示しており、これはこれでどうも油断がならないし、そもそも国力の大きいフランスがスペインに代わって低地に居座るようなことになれば、イギリスにとってはより大きい脅威となります。

ということで、結果的にイギリスは下記のような「ビミョ~」な対策を打ちます。
1:スペイン王との個人的な関係(フェリペはエリザベスに惚れてた)を利用した撤退の説得
2:オランダのレジスタンスに対する秘密裏の支援(資金及び武器の提供)
3:海賊へ支援し、駐留スペイン軍への補給を妨害
4:それらしい「噂」を流して金融市場でスペインの信用を傷つけ、軍事資金調達を妨害

なんというか、ほかに言い様がないのですが、やっぱりものすごく「ビミョ〜」ですよね。イギリスの外交政策は、中世から近代にかけていろいろな原則からの逸脱や例外を含んでいますが、一点だけ「低地が軍事大国によって支配されることを許さない」という点については通底しています。

その原則を守るためにこそ、ギリッギリまで耐えながらも最終的にはフェリペ二世のスペインと、あるいはルイ十四世やナポレオンのフランス軍とも戦い、1914年にはドイツによるベルギー侵入を契機に第一次世界大戦への参戦を決めています。これは地政学の問題ですが、要するに「低地」がバッファとして空白地帯になっていることがイギリスにとっての安全保障だったということです。

ということなので、いくら同盟を結んだからといってフランスと共同してスペインと戦うなどというのはエリザベスにとっては悪夢でしかありません。フランスかスペイン、どちらか一方に急激にパワーバランスが傾くことは、そのままイギリスにとっての「死」を意味したからです。前述した通りですが、イギリスの生存要件の基本は、フランスとスペインという隣接する二つの超大国がつねに勢力を均衡させ、緩衝地帯でベクトルが打ち消しあってゼロになっている、という点にかかっていたからです。

つまりイギリスという国は「軍事力」よりも「外交力」によってこそ生き残ってきた国だということです。そして、この様な「精妙な外交力」を支えたのが、英国が保有する高度な「情報サービス機能」でした。英国の情報サービス機能の最大のポイントは、必ず外交官組織とは別系統の情報組織を作って情報をダブルチェックする体制を確保してきた、という点にあります。この基本方針は、現実に外交政策を立案する立場にあるパワーエリートは自己の政策的立場に有利になる様に情報をねじ曲げる傾向がある、という過去からの反省に基づいています。

内閣が直接に情報を取得するために設立されたのが英国情報局、つまりジェームズ・ボンドが勤務している MI6だって知っていました?やってはいけないよと諭すのではなく、人間とはそういうものだ、というシニカルな諦めの上にダブルチェックする体制を整えるというところがいかにも英国らしいですよね。

こういう「民族的な学び」を、子供向けの番組にもちゃんと反映させて、一種の啓蒙活動を行っているということに空恐ろしさを感じるんですよね。だって、子供たちが集まってサンダーバードごっこやったら、五人のうちの一人は「モニタリング=情報収集」の役になるんですよ!

ちなみにサンダーバードには、五号以外にも、人的ネットワークを使って様々な情報を集めてくるレディペネロープという諜報員も準主役キャラとして出てくるのでした。



ロンドン・エージェントだって。恐るべし英国。


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