Thursday, February 14, 2013

システムは生命になり得るか? 酒井穣さんとの夕食

昨晩は、組織開発/リーダーシップ育成の第一人者であるフリービットの酒井穣さんとの会食でした。

酒井さんとは、実はこれが初めてお会いする機会だったのですが、長年来の知己の様に議論を楽しむことが出来ました。僕は常々、読書がもたらしてくれる人生の効用について様々な場所で話したり書いたりしていますが、本当にインプットの機会として重要視しているのは、本を読むこと以上に「人と話すこと」なんですね。

筋の良い読書を積み重ねて来た感性豊かな人格者との対話は、何年分にも及ぶ読書と匹敵するだけのインプットを数時間で与えてくれるのですが、昨晩はまさにそのような機会でした。ソクラテスも本を読むくらいなら議論した方がましだ、って言ってたでしょ?だから、昨晩はものすごく得るものがあったのですが、少し残念だったのが、僕が頂く刺激と同じだけのものを酒井さんに与えられたかと考えると、いささか心許ないということでしょうか。多分7:3か8:2で僕がもらった方が多かった夜かな、という気がします。

精進が足らんなあ。

思い返すに、いい年した中年二人が、コース料理を食べながら料理皿の横でノートを広げて、お互いの話をメモしている姿は傍目には異様に見えたかも知れません。ノートも同じモレスキンだったし。本当に、様々な気付きや学びを得られた会食だったのですが、最も印象に残ったのがダグラス・ホフスタッターの著作「ゲーデル・エッシャー・バッハ」に関する、酒井さんの解説でした。

ピュリッツァー賞も受賞したこの本、出版されたのが1985年なのですが当時15歳だった僕は夢中になって読んだ記憶があります。当のホフスタッターは、この本を20年ぶりに改訂するに当たって、書籍の冒頭に「この本は、大人ではなく、世界中の「頭のいい15歳」に読んで欲しいと思って書きました」と記しているのを読んで、(頭の善し悪しはともかくとして)期せずして当時15歳の少年だった僕は、「うん、しっかり届いたよ!」と思った由。

どういう内容かというと・・・まさに、それが議論の種になって小さなブームにもなったくらい、一言で記述するのが難しい本です。話題はチューリング定理、人工知能、不確定性原理、音楽の捧げもの、アキレスと亀の寓話等、あっち行ったりこっち行ったりともう無茶苦茶な暴走ぶりです。当然、高等数学の知識は皆無だったのですが、これがなぜか読めてしまう。なんというか、皮膚感覚に訴えるものがあるんですよね。

そういう本を、僕は散文詩を読む様に楽しんでいたのですが、それでは本全体として何が言いたかったのか、と問われると言葉が無い。だって面白いと思えるページをつまみ食いしていただけんだから。で、そういう僕に対して酒井さんから教えていただいたのは、著者自身が二十周年版の出版に当たって冒頭に記した「一体何について書かれた本なのか?」という問いに対する回答で、それは「無生物が生物に進化する、その境目というのは何なのだろう?システムが生命になることはあるのだろうか、という思考の過程を、著述したものなの」だというのですね。

これにはハンマーで頭を殴られた様なショックを受けました。

僕らは、システミックとオーガニック、論理と直感、機械と生命という概念を、西洋的な二項対律の枠組みで捉えがちですが、でも、もしかしたらシステムから生命が生まれるということもあるのかも知れない。

ここは、ものすごく危機感をもっている部分なんですけど、コンサルを10年やって、本当にアタマが悪くなったな〜とヒシヒシ思うのは、事象をMECEに分けたりツリーに分解してしまう癖がついたことを自覚する時です。MECEやイシューツリーというのは「知的世界の大量生産システム」ですから、極論すれば「そこそこのアタマの人でも、そこそこのアウトプットが出せる」というツールなんです。

だから本当にアタマの良い人はMECEにもイシューツリーにも頼らないんですよねって、言うだけバカっぽいけど。ニーチェやラカンが「これはMECEじゃない」とか「ここのイシューは」とか言ってるのを想像してみてください。一気にアホっぽく見えるでしょ?スルメを見てイカがわかるか!みたいな、まあそういうことです。

で話を元に戻すと、そういえば、西洋音楽の歴史の中で、もっとも魂を揺さぶるような生命力をもった曲の一つであるマタイ受難曲の作曲者が、西洋音楽の中で最も数学的な均整美をもった曲、それは「フーガの技法」や「音楽の捧げもの」といった、数学的な遊びじゃないかとさえ思えるような構造的な曲の作曲者であることは、長年美学者を悩ませる「矛盾」と捉えられていたのだけど、それは逆に、矛盾と表裏一体となった「必然」なのかも知れないなあと、泡盛のロックを飲みながら考えたのですよね。

そういった、宇宙を駆け抜ける様な思考の刺激を与えてくれた出会いに感謝したいと思います。

興味のある向きには、この「ゲーデル・エッシャー・バッハ」は是非お勧めしたいと思います。15歳の僕に「知性」というものが探索できる宇宙の広がりを、手触りとともに感じさせてくれた恩人の様な書籍です。ほんとに、こういう本を書いてくれてありがとうと言いたい。

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