キャリアのピークをどこに持ってくるか?

キャリアのピークをどこに持ってくるか?という論点を立ててるけど、そもそもそんなもの自分でコントロールできるのか?ということについても僕は確信をもっていないのですが、それは横に置いておいて。

最近、改めてその作品をザーっと横に並べてみて、これは面白い、と思ったのが、以下の三人です。

1:バッハ
2:ベートーベン
3:ラヴェル

皆、音楽史の転換点において、その曲がり角の行き先を指し示してくれた巨人ですが、彼らの人生の年代譜にそってその作品を並べてみると、「傑作」と後世呼ばれることになる作品を人生のどのタイミングで生み出していたかがそれぞれ違って中々面白い。

で、ものすごく端折ってまとめると、こうなっています。

1:バッハ(65歳で死去)
→30代~60代まで、一貫して最高レベルの作品を生み出し続けている

2:ベートーベン(57歳で死去)
→50代の人生最後の数年間に飛躍的に作品の深みが増している

3:ラヴェル(62歳で死去) 
→30代でほぼ傑作は出揃い、50代~死去までは殆どまともな作品を残していない(ボレロくらい)

自分の年齢が今42歳なので、30歳がキャリアのピークだったラヴェルのことを考えると空恐ろしい気もするのですが、5年前の自分と比較して今の自分が創造性や知的生産のレベルで劣っているとはとても考えられず、まあ今のところ坂を上っている状態ではあるのかなと思ったりもしながら、いやいや、もしかして裸の王様になっているんじゃないかと危惧したり・・・・ふう。

以前、このブログでもビートルズのジョージ・ハリソンを取り上げて、成長カーブの傾きとピークポイントの絶対的な高さは必ずしも相関しない、ということを書きました。ジョージの成長カーブは明らかにポールやジョンのそれよりも緩やかだったわけで、本当に初期の2~3枚のアルバムは聞けたものじゃないですけど、それがリボルバーとかホワイトアルバムの頃からやっとキックし始めて、最後のアビーロードでレノン・マッカートニーと本当に並ぶレベルになった。

だから、そう考えるとビートルズというバンドが本当の意味で完成したのは皮肉にも最後のアルバムを出したアビーロードの時期だったんじゃないか、という話ですが、今回取り上げた三人の音楽キャリアは、傾きのカーブとピークポイントの高さ以外に、キャリアのピークをどれくらい高原状態で保てるかは、人によって大きな開きがある、ということを示唆しています。

で、この差は何に起因しているのか?という論点が出てくるわけですが、僕はこれは

「贈与」

の問題にもしかしたら行きつくのかも知れない、と思っています。

贈与論は、もともとはフランスの文化人類学者のマルセル・モースが打ち出したものですが、一言で言えば、人の行動は贈与によって起動されるものであって、それは経済学が言っている様な「等価交換」とは異なる、ということです。経済学は、この年齢になってみて改めて本当にダメな学問だなと思うのですが、それは贈与の問題をまったくフレームに取り込めていないからです。労働価値説とか効用価値説とか言っているけど、人間の活動を全く説明できていないでしょう?

バッハは、自分の音楽を神を賛美するために書いていました。自分の中にあるものとか自分の効用ではなく、純粋に音楽を神に「贈与」していたんですね。

ベートーヴェンは、自分の音楽をより高い人間性を賛美するために書いていました。バッハとその対象は異なりますが、やはり自分の中にあるものとか自分の効用ではなく、音楽を「贈与」していたわけです。

ところが、こういった「贈与」の態度が、ラヴェルには見られません。彼は近代人ですから、世の中のルールに従って作曲活動をしてお金を稼いでいい暮らしをしていたわけですが、音楽を作るという行為に関連して「贈与」のパッションというものが感じられない。

で、これは、やっぱり弱いな、と思うわけです。

最近は年収を高める、あるいは起業して一攫千金を掴む、というのが非常に定型化されたゲームみたいになっていて、そのゲームの勝ち方を学校で勉強して一生懸命やっている人も多くて本当に辟易させられるわけですが、そういう方向性を追求しても本質的な意味でキャリアのピークを高原状態に保つことは出来ないと、僕は思っています。

キャリアのピークを長く続けるには、一言で言うと「大きなアジェンダ」が必要なのです。

大きなアジェンダ、それは神を賛美したいとか、人間性の高貴さを訴えたいとか、理不尽な世界を変えたいとか、貧困をなくしたいとか、なんでもいいんですけど、そういった大きなアジェンダをもっていない人は、やっぱり長持ちしないんじゃないでしょうか。

ということで、よりビジネスマンとして、息長く、キャリアを楽しみたいと思ったら、なんでもいいので、他者から与えられたゲームのルールや価値観に従うのではなく、自分なりに取り組める「大きなアジェンダ」をもつことが大事だ、という話でした。