Sunday, February 14, 2010

佐賀よいとこ&今週の読了

昨年の秋に共同新聞社さんで行った講演会にいらしていた佐賀新聞の中尾社長から「同じ内容の講演を社内で是非」とのご招待を受けて佐賀に行ってきました。問題意識の高い人たちとの議論もあり、こちらにとっても大変刺激のある一日となりました。

新聞の苦境が叫ばれていますが、渦中にあって地方紙の業績は比較的堅調な状態を保っています。地方紙は中央紙や、ましてやテレビなどと違って広告に依存する売り上げの比率が低い(だいたい3割程度しかない)ので、広告不況の影響が比較的小さいのです。とは言え若年層の新聞離れといった難問も抱えているのですが。

佐賀新聞は地方紙の中ではもっとも早い時期にネット事業を始めた会社です。座談会の後、中尾社長がごひいきにされている料理店にご案内いただいたのですが、お話を伺っているとまさに開明君主という言葉が浮かんできました。読書と茶道を趣味にして、建築や音楽、美術等にも大変造詣が深い。本当に楽しい食事会でした。高校から大学にかけて作曲の勉強をしていたんですよ、とお伝えすると「作曲というのは建築と同じでしょう?」と本質をずばり突くコメントをされて驚きました。マスコミの経営陣は守旧的かつ保守的な方が多いのですが、こういう方を経営のリーダーとしてもたれている佐賀新聞社さんの中堅〜若手の方は恵まれているなと思いました。

土曜日の昼からオフィスで会議があったために朝の飛行機で帰ってきてしまったのですが、空港に向かう道すがら、道の両側にもやに霞む広大な畑が出てきて実に美しいのです。運転手さんに「これは何の畑ですか?」と伺ったところ、ビール小麦とのこと。佐賀はビール小麦の国内有数の産地で僕らが呑むキリンやアサヒのビールも、もともとは佐賀の小麦なんだそうです。知らなかった。

料理はおいしいし、畑は美しい。また行きたいですね、佐賀。

今週の読了は3冊

1:奇跡のリンゴ
無農薬でリンゴをつくる、というタブーに挑んだ木村秋則さんの奮闘を取材して書かれたノンフィクションです。知らなかったのですが、リンゴというのは大変脆弱な木で農薬を使わないとあっという間にダメになってしまうのだそうです。従って、無農薬に挑戦した木村さんも2年程で収穫がゼロになり、小学生の子供に文具も買ってやれないくらいのどん底の状態に陥ります。そこからさらに9年、ほぼ無収入のまま頑張り続けて最後には成功するのですが、そのどん底ぶりはすごいものがあります。収入がないから農作業が終わった後(農作業といっても当のりんごの木には花が咲かない)、街のバーに行ってよびこみをやる、閑農期には出稼ぎに東京に来るけど金がないから公園に寝泊まりする、といった具合です。

この本を読んで何を学ぶかは人それぞれでしょう。「あきらめないことが大事」とか「情熱をもって取り組めば何事も可能」とかいったことを学びとして挙げる人もいると思いますが、私はあまりそういった点は学びにならないと思います。だって小学生の子供に文具買ってやれないような状況を何年も続ける、しかも、それを改善しようと思ったらすぐに改善できる(農薬を使えばいい)状況でそれを続けるというのは、普通の人には出来ません。あまりに距離感があって学びにならないと思うんですよね。

こういうことを「学び」として整理してしまうと、いざ自分が似たような状況になったときには結局同じことが出来ず、「自分はやはりだめ、木村さんと違う」と考え、かえって自分をダメにする様な気がします。普通に考えても、この木村さんというのは相当な変わり者で、性格破綻者すれすれと言えます。僕は精神分析は専門じゃないのでよくわかりませんが、過去に偉大な業績を上げた人物にも似たような傾向を持つ人がいて、それらの人は往々にして統合失調症だったりするんですよね。異常な偏執性は統合失調症の顕著な症状の一つです。

例えばコロンブス。まあ歴史上は偉人と言われていますが、あの当時にヨーロッパから西へ西へ行けばアジアに着くはず、という荒唐無稽な考えを抱いたり、トスカネリの間違った古いバージョンの地図を頑に信じて絶対に新しい地図を受け入れようとしなかった。「たまたま」アメリカ大陸を見つけたので、まあ結果オーライということで偉人の仲間入りをしたわけですが、あれ、そのまま何も見つからずに帰って来てたら「ただのバカ」ですからね・・・

ということで性格破綻者の人の粘り強さは余り学びにならないし、「これはヤバそうだ」と思ったらさっと身を翻すのも現世の知恵とも言えます。まあ程度問題ですね。

では僕は何を学んだか?この本から学べるのは2つあると思います。

一つは、物事がうまくいかないときは、思考のパラダイムを変えるのが大事だということ。
木村さんは、リンゴの無農薬栽培に挑戦し始めた当初、「農薬に変わる何か」を探し求めることに奔走します。酢、醤油、酒、ミソ、土といったものを「農薬の代わり」に撒く。虫がついたらそれを取り除く。雑草が生えたらそれを抜く。要するに「農薬だけを何かに変える」ことで、同じ育て方をしようとしていたんですね。虫がつくのはよくない、雑草が生えるのは良くない、従って農薬が必要なのだが、農薬は使いたくない。だから農薬に変わって虫を殺し、雑草を殺す何かを探す、ということをしていたわけです。木村さん11年にわたる七転八倒の苦悶は、農薬に変わる何かを探すことに費やされています。最後には殆ど全ての液体や物質を試してしまい完全に行き詰まってしまいます。

もうやるべきことはやった。自分が居ると人に迷惑をかける、ということで死のうと思って訪れた山奥にりんごの木を見つけてます。何故、誰からも面倒を見てもらってないリンゴの木がこんな山奥に・・・・?これがヒントになり、彼は結局、虫を殺し、雑草を殺す、という考え方そのものを変えない限りリンゴの無農薬栽培は出来ないのではないか?ということに気づきます。そして、最後に辿り着くのが「土」の違い。山中に生えていたのは結局はリンゴではなく椎の木だったのですが、その根元の「土」の違いに彼は驚きます。まず温度が違う。山中の土は掘り下げて行っても冷えない。微生物が活発に活動しているからです。一方で木村さんの畑は10センチ掘るごとにどんどん温度が冷えて行く。口に含むと山中の土はいい香りがするのに、木村さんの畑の土は苦い。

結局、そこに気づいた彼は草を刈るのをやめ、放置プレー(というほど放置していないと思いますが)に出て、そこから少しずつリンゴが元気を取り戻し、最後は大成功という話なんですね。言葉にしちゃうとシンプルで陳腐なのですが、やはり「何が善で何が悪なのか」ということを考え直さないと、行き詰まったときは難しいですね。


2つめの学びは、やはり愛が大事、ということかなと思います。
こんなエピソードがあります。無農薬に挑戦して3年目、いよいよ行き詰まりが明確になっていたころ、リンゴの木がどんどん枯れていっちゃうんですね。真夏にもう真冬みたいに立ち枯れてしまう。万策尽きたと思った彼は、夜にリンゴの木一本一本に声をかけていきます。ごめんなさい、僕の育て方がヘタで辛い思いをさせてしまって。でもお願いだから枯れないでください。頑張ってください・・・・と。

それを目撃したのは彼の奥さんだったそうです。さすがの木村さんも昼間にそれをやったら病院送りになると思ったらしく、夜半に家を抜け出してこっそりやっていたんですね。道路際の木や隣の畑に隣接している木も避けて、一目につきにくいリンゴの木に、こうやって声をかけていった。結局、半分程のリンゴは木村さんの奮闘もむなしく枯れてしまうのですが、不思議なのは、声をかけなかった道路際や隣の畑に面しているリンゴの木はことごとく皆枯れてしまったそうなのです。

新約聖書の中には、イエスが病人を癒すエピソードが数多く描かれています。触れると直っちゃう。末期医療の病院では、もうモルヒネも効かなくなった患者さんに看護士の人たちが交代で手を当ててあげます。すると不思議に痛みがひいてくるというんですね。まさ「手当て」するわけです。

不思議な話だけれども、もっともこの本の中で印象に残ったエピソードでした。

以下は今週に読んだ別の本。
2:「都市縮小」の時代 矢作弘
アメリカや欧州において、既に人口縮小を迎えた都市の取り組みを紹介する本。単なる取り組みの羅列で、かつ何が効果があって何が効果がなかったのかの整理がされていないので極めて頭に残りにくいです。ただ、100万人の人口が半分以下になっているデトロイトの惨状とか読むと人ごとではないな、とは思いますが・・・

3:最強のプロ野球論 二宮清純
飛行機の中で読むために買いました。「論」というほどのものではなく、「史上最速の球を投げたピッチャーは誰か?」とか「もっとも怖い強打者は誰か?」といった飲み屋で話される話題について、プロからの意見をいろいろと紹介した本です。沢村というのは本当に速かったとか、長島よりも中西の方がすごいらしいとか、杉浦のフォークは1メートルくらい落ちたとか、まあそんなことが書いてあるのですが・・・

微笑ましいというか、苦笑してしまうのが重鎮プロ野球OBの言葉ですね。「金田の全盛期は160は出ていたね」とか「沢村のデビュー?軽いストレートで150は出ていたよ」とか、要するに「今の松坂とか野茂なんて大したことないよ」というニュアンスが、そこかしこに出ているんですよね。

スピード計測装置がない時代にどうして「○○は出ていたね」なんてさも確実そうなことを平気な顔して言えるのか、ちょっとその神経がよく分かりません。目測で球速を図らせて誤差が2%以内に収束しているとか、そういう証明があるのならまだいいのですが(例えば目測で150キロだったとして、誤差2%なら147キロは許される)、ちょっと信じられないですよね。

まあ楽しませていただきました。


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